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2019.05.05

TALKING ABOUT "SONAR-FIELD" – Crosstalk vol.1-3

坂東祐大(代表)×  稲葉英樹(デザイン)×  前久保諒(制作)

"公演を通して〈ハテナ〉を打ち込む"

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 2019年3月に開催したEnsemble FOVEの”SONAR-FIELD”公演を皮切りに、FOVEが目指す音楽の新しいポテンシャルに迫る鼎談最終回。最後は作曲家・坂東祐大が自身の音楽をどうみるか、演奏会というフォーマットになにを持ち込むかなど、音楽のコアに向かって話題が加速していきます。Ensemble FOVEというアンサンブルが据えている音楽観について様々な側面が明らかになる注目のパート。最後までお見逃しなく!
 

​(構成:前久保 諒 写真:佐藤 健一)

▶︎坂東、稲葉、前久保によるクロストークPart 2はこちら

“リスナーと発信者の相互関係が成り立ってないといけない”

坂東:ちょっと話が戻るんですけど、FOVEとして行う活動がまずあって、最終的にそれぞれ個人の活動に還元できることが理想なんですよね。いまはまだその状態じゃないけれど、FOVEの活動はそういうところがあると思うんです。たとえば「ユーリ!!! on ICE 」から入って知っていただけたというケースもあって。とはいえかなり団体として振れ幅がある活動をやっていることは確実なので、全然接点のない分野の人から見て「あ、これはおもしろい」って思ってくれた時に、普段の活動じゃ届かないところまで届くというのは本当に嬉しいことです。


稲葉:よくわかります。


坂東:なんでもいいと思うんです。美術、パフォーミングアーツ、ダンスや、そしてもちろんクラシック以外の音楽リスナーの方たちが、普段のクラシックのコンサートではピンとこなくても「これはおもしろい」と思ってくれたら、僕たちもやる意味があるし、むしろやっていかなきゃいけないことかなと思ってます。
 

稲葉:個々の奏者が、バックボーンも含めてみることができたりしたら、より味わい深くなるよね。物事って結構そうじゃない。
 

坂東:文脈で見るってことですよね。
 

稲葉:実際問題、コンテンツはリスナーも含めてひとつのものだと思います。リスナーと発信者が別々の関係にあるのはよくなくて、やはり相互関係で成り立ってないといけない。もしかするとリスナーもまた別の発信者で、発信者は別のコンテンツのリスナーになっているみたいなこともあり。そういう感覚でコミュニティが成り立ってないと面白くないですよね。さっきの感受性の話でもあるけど、「私はあれが好き」「私はこっちが好き」って言えなきゃいけないし、FOVEみたいな体験は、それをすごいと思ってくれないと話が違ってくる。
 

前久保:それはありますね。
 

稲葉:そういう意味で世の中には新しい評価が必要なのかもしれない。直感的に観ていいかどうかというのを個人で感じて欲しいっていうのはよく思うけれど。インターネットができたことでみんながある程度の情報を入手できるようになった。一方で、感受性にもトレンドが存在してしまったり。変な評価が広まってしまったり。ある外国人の友人が日本のカルチャーについて詳しくないから、とても直観的になるんですよ。あれおもしろいよねって、すぐ面白いものを発見してくるんですよね。

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“「すごくよかった」って言ってたけど、疲れてそうな顔してた(笑)”

前久保:なんかわからないけど魅力的なものがあるとして、その「なんかわからない」っていう状態に留まれない気持ちもあると思うんです。だからこそ情報を求めてSNSとかで調べたくなってしまう。だからこそというのか、その「なんかわからない」にとどまる力って人には必要だと思っていて……。

 たとえば”SONAR-FIELD”って聴く側にとって結構ハイカロリーだと思うんです。少なくとも癒しではない。もしかしたら聴き手を疲れさせるかもしれないし。
 

稲葉:たしかに。僕も前回公演を聴きに行ったとき、疲れたけどいいもの見たなっていう感触があった。一緒に行った知り合いも「すごくよかった」って言ってたけど、疲れてそうな顔はしてた(笑)

 おもしろいね。たとえば自分の好きなアーティストのライヴなりフェスに言ったとして、同じようにはならないと思う。でも”SONAR-FIELD”行ったときは疲れた(笑)なんでだろう。肉体的なところなのか……。情報量が多いし、目の前で弾くし、音とも人とも向き合って、そういう肉体と精神が伝わってくるからかな。あと知っているメロディがなくてこちらが探そうとするからなのかもしれない。どうしても緊張感が発生してしまうかもね。
 

前久保:なるほど。とはいえ、そういうことって坂東さんからするとある程度織り込み済みなんじゃないですか?
 

坂東:そうだね。情報のシャワーをひたすら浴びて帰っていくっていうのを最初から想定してたところはある。
 

稲葉:それが良い意味での疲れになるんだよね。
 

坂東:僕の音楽は本当にリラックスできないタイプの音楽なんですよね。ジェットコースターに乗れるか乗れないかっていう。乗れる人はとことん乗ってくれるんだけど、乗れないとダメっていう……(笑)
 

稲葉:なるほど。そうかもしれない。でも全体の時間が短いのもいいかもね。
 

坂東:あれ以上長いとちょっと無理かもしれないですね。
 

稲葉:ワーっと集中して聴いて、「はいお帰りください」ってなると、疲れも含めて心地よさを感じる。
 

坂東:その辺は結構狙ってやってますね。
 

稲葉:耳を満足させるという意味ではクリアしてて、それは癒しとかではないということなのかな。これからもいろんなところに落とし込んでいくべきだと思う。笑いかもしれないし。
 

坂東:ブラックジョークみたいな(笑)
 

稲葉:でもゲラゲラ笑うのとは違うかもしれない。笑いの美っていうのもあるわけで、そういう落としところをどうするかは面白いところなんじゃないかな。
 

前久保:坂東さんは、自分が面白いと思ってることは人に負荷かけるかもしれない、と思ってやってるってことですよね。
 

稲葉:いや、僕からしたら”SONAR-FIELD”は明らかにジェットコースターだからね(笑)
 

一同:(笑)
 

稲葉:いきなり「乗ってください」って言われて、待ってよ……ってなって、あっという間に「おつかれさまでした」って。でも大事だよね、非日常的だし、強制的でもあるから。

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“「時間」があるからこそファンタジーを仕掛けられる”

坂東:上野耕平くんともよく話すんですけど、いかにコンサートでお客さんを能動的にさせるか、どう能動的にさせるフォーマットを立ち上げるかっていうことを考えてて、別の角度で感じてもらいたいっていうのは大事なことで、だからこそ非日常感をつくるのはすごく大事だと思いますね。
 

稲葉:そうだと思う。ジェットコースターだし、ちょっとしたファンタジーだし。坂東さんとは映画の話をよくするけど、映画にもそういう要素があるよね。
 

坂東:だから劇場まで観に行っていきたいのかもしれない。僕にとって非日常へ一番簡単にアクセスできるコンテンツは映画なので(もちろん人によってその辺は違うとは思いますけれど)。こういうことは僕にとって10年〜20年と続くテーマなのかもしれない。
 

稲葉:音楽や映像は時間軸があるけれど、アートにもなくはないけれど一方でパッと見れちゃう場合もあって、時間が存在しにくいこともある。ファンタジーはそれを崩してるからとても面白いですね。
 

前久保:多分、根本的に人を信じてないとできないですよね。相手を信頼してないとなかなかできないことだと思う。
 

坂東:いろんな意味で模索中ですね。それも楽しんでいるのですが。あと、20代で結論が出るわけじゃないし……。
 

稲葉:僕も何年も前の作品が何年かたって展示されることになったりするケースもあったりして。思いがけず自分の活動をアーカイヴしていたら、思いも寄らない声が掛かる場合もある。だからちゃんとアーカイヴを残すことが大事なんだろうね。どこでどうなるかわからないから。
 ともかく、ファンタジーをつくるっていうのは、表現をする上では最重要なことだよね。ある種の嘘というか問いかけをするって言ってしまえばアートもその範疇に入ると思うけれど……。
 

坂東:「ハテナ」を打ち込むっていうことなのかなと。
 

稲葉:そうだね。
 

坂東:結構考えますね。「何なの、これ」という感想は、ネガティヴな感情になってしまうかもしれないので。よかった!感動した!泣けた!じゃないものを作る場合どうしたらいいかは、考え続けないといけないことですね。

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Photo by Ryo Maekubo

​左から、前久保諒(制作)、坂東祐大(作曲)、稲葉英樹(デザイン)

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